【はじめに】
課税事業者においては、高額な資産(以下「高額特定資産」といいます。)の購入代金に係る課税仕入れを全額控除しているにもかかわらず、その後の課税期間で簡易課税制度を選択適用することで、売却代金のみなし仕入率(例:建設業70%)相当分が本来課税仕入のない課税期間において二重に控除する等の事例が散見されていました。
そこで、平成28年度税制改正では、課税事業者が高額特定資産の取得・建築の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間において、「小規模事業者に係る納税義務の免除(消法9①,以下単に「事業者免税点制度」といいます。)」及び「中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例(消法37,以下単に「簡易課税制度」といいます。)」が選択できないこととされました。
本稿では、創設された高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例制度(以下「本特例制度」といいます。)の概要とその実務上の留意点について解説します。
【改正の概要】
事業者(免税事業者を除きます。)が、簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に国内における高額特定資産の課税仕入れ又は高額特定資産に該当する課税貨物の保税地域からの引取り(以下「高額特定資産の仕入れ等」といいます。)を行った場合には、その高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間からその課税期間(自ら建設等をした高額特定資産にあっては、建設等が完了した日の属する課税期間)の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間において、事業者免税点制度及び簡易課税制度が適用できないこととされます(消法12の4①②)。
なお、本特例制度は、課税事業者が、簡易課税制度の規定の適用を受けない課税期間中に高額特定資産の仕入れ等を行った場合に適用されますので、その後にその高額特定資産を廃棄又は売却等により処分したとしても、継続して適用されることとされます(消基通1-5-22の2)。
【高額特定資産の定義】
「高額特定資産」とは、一取引単位につき、課税仕入れに係る支払対価の額が税抜1,000万円以上の棚卸資産及び調整対象固定資産とされます(消法12の4①,消令25の5,平成28年改正消令附則5)。
また、事業者が他の者と共同で購入した資産(以下「共有物」といいます。)が高額特定資産に該当するかどうかを判定する場合において、「高額特定資産の範囲等(消令25の5)」に規定する金額が1,000万円以上であるかどうかは、その事業者の共有物に係る持分割合に応じて判定することとされます(消基通1-5-25)。
なお、「課税仕入れに係る支払対価の額」とは、その資産に係る支払対価の額とされ、その資産の購入のために要する引取運賃、荷役費等又はその資産を事業の用に供するために必要な課税仕入れに係る支払対価の額は含まれません(消基通1-5-24)。
【適用関係】
上記の改正は、平成28年4月1日以後に高額特定資産の仕入れ等を行った場合に該当することとなるものについて適用されます(平成28年改正法附則32①)。
なお、平成27年12月31日までに締結した契約に基づき平成28年4月1日以後に高額特定資産の仕入れ等を行った場合については、上記の規定は適用されません(平成28年改正法附則32②)。
【おわりに】
本特例制度は、賃貸マンション等を取得する時に、課税事業者選択届出書を提出することなく課税事業者となるように、予め基準期間の課税売上高を1,000万円超となる調整をした法人を利用し、意図的に「調整対象固定資産を取得した場合の課税事業者選択制度(消法9⑦)」の規定(平成22年度税制改正)を回避するような行為の防止も意図されて改正が行われています。
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