これは個人間の格差拡大の話ですが、ここでは少し見方を変えて、財務諸表の格差拡大について考えてみましょう。
ここで言いたいことは、「財務諸表が格差拡大を促している」ということではなく、「財務諸表は格差拡大を先鋭的に表示するように変わってきている」ということです。
資産価額とは何なのでしょう。
そんなことは自明のことだといわれるかもしれません。
一般の消費者の感覚からすれば、資産価額とは売買する価格、つまり、その資産を実際購入した価格か売ることができる価格です。
企業会計でも以前はこれで十分でした。
この考え方によれば、資産価額は資産を所有する企業の外で決められるものであり、企業自体でどうこうすることのできないものでした。
しかし、近年の考え方は違います。
資産価額は所有する企業の収益力により変わるとする会計基準が多くなってきています。
たとえば、減損会計では、固定資産の価額には将来その資産が生む収益力が反映されると考えます。
収益力が落ちれば、固定資産価額を落とすのが減損会計です。
こうなると、資産の評価は客観的なものさしでは測れません。
まったく同じアパートを所有していたとしても、所有者の賃借人を集める能力に応じて資産の評価額は変わってきます。
これは何もアパートに限るものではなく、工場でも店舗でも同様です。
また、税効果会計でも、収益力の高い会社ほど、繰延税金資産という資産を計上できる可能性が高まります。
新しい会計概念では損益計算書の収益力は単に損益計算書にとどまらず、貸借対照表をも動かします。
本業の収益力が高ければ、税効果会計で繰延税金資産という資産を計上し、資産総額を増大させることができます。
一方、収益力が低ければ、繰延税金資産を計上できませんし、場合によっては既に積んだ繰延税金資産を取り崩すこともあります。
また、減損会計では既存の固定資産まで減額しなければならなくなります。
こうした資産の計上や取崩しは貸借対照表の価額を変動させるだけではありません。
複式簿記ですから資産の反対勘定として、損益計算書の損益を再び揺り動かします。
つまり、元々の収益力の高い会社は貸借対照表の資産をより厚くし、それが損益計算書の最終利益を更に高めます。
逆に収益力のない会社は貸借対照表の資産を減額しながら、損益計算書の損益を一層悪化させます。
近年の会計基準は、従来の会計基準ではオブラートに包んでいた、強いものの本当の強靭さと弱いものの真の脆弱さを白日のもとにさらします。
その意味では弱者に冷たい制度です。
日本人のメンタリティーからすれば、旧来の会計基準の方が性に合っているような気がしますが、グローバル化に従う限りこれは不可避な流れです。
会計制度も世の中の風潮と同様に格差を一層助長する方向に向かっているといえます。
収益力を持つ会社は益々強く、収益力を持たない会社は益々弱くなります。
今の会計制度の下で重要なのは収益力です。収益はすべてを癒します。
(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)
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