2016年10月24日月曜日

のれん償却方法の違いから見る企業文化

 現在の日本の会計基準では、M&Aで生じる資産側に発生するのれんについて、20年以内で定期的に償却をすることを定めています。

 一方、IFRS(国際会計基準)や米国会計基準では定期償却はせず、のれんはそのままの金額で資産に残し、買収した事業や企業の収益性が落ちたときに、減損として費用処理するようにしています。

 したがってこの場合、収益性が落ちない限り、のれんの償却は発生しません。

 資産にあるのれんを償却すれば、損益計算書に費用が発生するのに、償却しなければ費用が出ないので、日本の会計基準はM&Aでは不利になると言われています。

 のれんを償却しようがしまいが、会計上の処理方法が違うというだけであり、キャッシュフローには関係なく、企業行動に影響することはありません。

 M&Aをするかしないかは、企業なり事業を手に入れるために投下したキャッシュフローと、獲得した企業や事業が将来獲得するであろうキャッシュフローを比較して判断することですから、会計基準の変更自体は企業に影響を与えないと考えるべきです。

 ただ、会計基準が違えば表示される利益が違ってきますから、株価には影響を与えることはあるかもしれません。



 先ほども述べたように、のれんの償却、非償却は本質的にM&Aの判断に影響を与えるものではありません。

 ただ、のれんを償却するかしないかという会計基準の違いは、日本と欧米の企業文化の相違を示唆しているように思います。

 のれんについて、日本基準は定期償却ですから、買収対象事業や企業の損益状況とは無関係に償却が発生します。

 また、のれんの償却費は企業全体の利益から控除されます。

 こうした会計基準の背景には、事業や企業も買収されてしまえば、もはや親会社と一体になったという認識があります。

 買収の象徴として発生したのれんは買収対象企業が親会社と一体化するにつれ、徐々に小さくなり、何年か経てば消えてなくなると考えます。

 同じ企業グループになったのだから、いつまでも買収した側と買収された側を区分して、個別の事業の採算を云々するのではなく、企業グループ全体で前向きに進もうという思想には合致した会計処理だといえます。

 ただ、この場合、個別の責任追及は甘くなる傾向があります。

 これに対し、IFRSや米国会計基準ではのれんの定期償却はせず、買収した事業や企業の業績が著しく悪化したときに、減損をします。

 そこには、同じ企業グループに入ったといっても、ある事業の損失を他の事業でカバーする全体責任ではなく、あくまで個別事業体として、損失が発生した責任はその事業にとってもらうという発想があります。

 これは事業ごとの責任追及には適した思想ですが、企業グループ一体で利益を追求するという観点とはやや違います。

 どちらの思想にも一長一短があり、どちらがいいとか、悪いとかいうことではないのですが、買収が終わってしまえば、買収した方もされた方も一体だという集団主義的考え方の方が日本人のメンタリティーにはあっているような気がします。


(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)

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