決算書は経営者にとってどんな意味があるのか考えてみましょう。
決算書の作成目的は大きく二つに分けられます。一つは経営者が自分の会社の経営状況を正確に把握するためであり、もう一つは会社外部の株主、債権者などの利害関係者に対して会社の財務状況を説明するためです。会社の内容を正しく知ることは、会社が成長、発展するための基礎ですから、経営者は前向きにとらえることができますが、株主や債権者などへの外部向けの説明は、法的に強制されているからやむをえず行っている、といったとらえ方をしがちです。しかし、外部向けの説明を軽視してはいけません。決算書は経営者を守る最大の盾となるからです。
決算書の出発点は株主に対する財産説明にあります。会社は株主が資金を出し合って作ったものですから、会社の所有者は株主です。小規模なら、少人数の株主が自ら資金を出し合い、自分で経営することができますから、外部からの資金提供は不要であり、外の人間に財務状況を説明する必要はありません。しかし、会社の規模が大きくなると、株主数が多くなり、経営者と株主は異なってきます。また、資金調達も株主資本に加えて、銀行などの債権者も出てきます。すると、株主や債権者は他人である会社に自らの資金の運用を託しているのですから、会社を経営する経営者は株主や債権者に対して預かった財産の運用結果、つまり当初預かった財産をどれくらい増やしたのか、あるいは減らしてしまったのかを説明しなければなりません。その説明書が決算書です。
他人の財産を預かる受託責任には重いものがあります。その運用責任を解除するのが決算書なのです。
株主や債権者は決算書の成績を見て、資金提供の可否を決めます。成績が満足いくものであれば、資金提供者は現在提供している資金の継続、あるいは増額を決めるでしょうし、不満なら資金を引き上げます。決算書で財産報告の説明をすることによって、経営者は財産の運用受託責任から解放されます。結果が良かろうが、悪かろうが、結果報告をしたことにより、財産運用責任は経営者から資金提供者に移行し、そこからは資金提供者の判断の世界に入ります。結果が悪ければ“経営者無能”という烙印を押されることにはなりますが、経営者はそれ以上の責任を負うことはありません。
ただし、責任を解除されるのは正しい財産報告をした場合に限ります。嘘の財産報告では、責任解除はされません。表面的には解除されているように見えても、嘘の財産報告に基づいて、資金提供者が資金を出し続け資金を失えば、責任は経営者に戻されてしまいます。そのときは、経営者は“無能”に加えて“犯罪者”にもなるのです。
正しい決算書は経営者を保護する強力な防御壁として機能します。外部の利害関係者に対して、嘘をつかず、誠実に決算書で説明することが経営者自身を守ることになります。決算書で嘘をつく限り、過去のことを心配し続けなければなりません。それは前向きな経営の阻害要因となります。経営者は過去の実績と責任はすべて決算書に放り込んで、後顧の憂いなく、これからの経営活動に邁進すればいいのです。
(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)
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