公的年金の改革が本格的にはじまろうとしています。以前から、公的年金については、改革について多くの議論がなされてきました。現在、改革として、パートで働く主婦や高齢者などを対象に年金の仕組みを変えることで働く人を増やし、結果、保険料が増えるようにルールを変えようといった議論が進められています。なかでも、目玉は公的年金資金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革にあります。
GPIFとは厚生労働大臣から寄託された年金積立金の管理と運用を行う独立行政法人です。国民年金と厚生年金の積立金は2013年3月末で約132兆円になっており、そのうちの約127兆円をGPIFが運用しています。現在、運用の方針が大きく変わろうとしています。
これまでは、運用の額の大きさや年金の積立金ということから、比較的安全でリスクが少ないといわれる、国債などの国内債券を中心に運用してきました。ところが、今の年金制度を維持するには、利回りは1.7%が必要ですが、国債では目標の利回りには届かない可能性が濃くなりました。
もちろん、好景気になれば金利が上がるので利回りも改善します。ただし、金利が上がると、今度は国債の価格が下がり、資産の総額が減ることになります。
そこで、国債の割合を減らし、より高い利回りを期待できる日本株への投資を増やす方針が打ち出されました。10月31日、GPIFは株式と債券の比率を50%ずつにする方針を打ち出しました。加え、国内資産を60%、海外を40%と海外資産の比率をも高めます。結果、これまで60%を占めていた国内債券は35%にまで引き下げられることになりました。
GPIFの改革は一見、経済にはあまり関係ないようにもみえます。ところが、実際は、株価に大きな影響を与えます。改革により、GPIFが株式運用の割合を増やせば、それだけ株式市場に多くのお金が流れ込み、株価を押し上げる効果があります。国内株式への組み入れ比率を1%高めるだけで、株式市場には1兆円超の買い余力が発生するという推計も出ています。
もちろん一気に買うわけではなく、徐々に買っていくので、短期間で日経平均株価が何倍にもなるわけではありません。ただ、日銀の量的追加緩和などの影響などもあり、日経平均株価は、10月の半ばではおよそ1万5,000円でしたが、11月21日は1万7,357円と2,000円以上も高くなっています。
その一方で、今回の改革に対して心配の声もあがっています。第一は、株式の比率を高めることが正しいのかという点です。株価が上がっている今はよいのですが、今後、株価が下がったときに、しっかりと損を回避する(株をタイミングよく売る)ことができるのか、不安視する専門家もいます。
加え、現在の年金制度は女性の就労が現在よりも大幅に増えることを前提としています。本当に、女性の就労増加を実現できるのか、という心配も出ています。こうした前提が崩れたときに、運用に行き詰まりが出ないか危惧されます。
結局は、冒頭で触れた通り、女性や高齢者などを含めて労働者の数を確実に増やしていくこと、さらには、少子高齢化の進展に合わせて、年金の支給額を変えていくような、制度の見直しなどもあわせて改革が進められるかどうか、ここに改革の成否があります。
(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)
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