ここ1~2年、東芝や富士通、パナソニックなど、大手エレクトロニクスメーカーが野菜の生産事業に参入するようになりました。パソコンや半導体チップと同じように、ホウレンソウやリーフレタス、ベビーリーフなどを育てて出荷するというものです。
なぜ、パソコンを製造しているメーカーが野菜を生産するのか、エレクトロニクス製品と野菜は全く関係のないもののようにみえます。ところが、野菜を生産する過程には、これまで電機メーカーが蓄積した技術が数多く応用されています。
まず、野菜は畑ではなく植物工場という専用の設備で育てられます。ここでは、LEDや蛍光灯により、野菜が光合成に必要な太陽光と同じ波長の光をあて成長を促します。また、夜の時間帯は照明を消して昼と夜も人工的に作り出すことで太陽光と同じように野菜が育ちます。東芝やパナソニックは照明事業を行なっており、植物工場にはLEDをはじめとする高い照明技術が応用されています。
加えて、半導体の技術も応用されています。富士通が福島県会津若松市に構築した植物工場は、もともとは半導体工場のクリーンルームでした。半導体のチップは、製造工程でほこりや汚れが混ざると良品にならないため、室内をきれいに保つことが必要とされています。
室内をクリーンに保つ技術は、菌の侵入を制限します。そのため、雑菌による傷みが少なく長期保存ができる野菜を育てることを可能にしています。また、雑菌がついていないため、野菜を洗わずに調理できる点もメリットです。ファミリーレストランなどの外食産業で、調理時間を少しでも短くしたいと考えている事業者のニーズを満たします。
植物工場は野菜生産の方法を大きく変えるものでもあります。一例を挙げると、室内で生産するので、天候に左右されることもなく、計画的に作物を生産できるようになります。これまで、台風や干ばつ、雪害などが起こると、野菜の価格が高騰し、消費者の生活に影響を及ぼしていました。
メーカーには製品を安定的に供給する生産管理の技術があります。植物工場では生産管理のノウハウを応用し、野菜の生産量が不足、あるいは過剰にならないように数量をコントロールしています。野菜の価格が安定すれば、農家はもとより、消費者にとっても大きなメリットを受けることができます。
ただし、電機メーカーの真の狙いは、農業に参入することではありません。現在、農業では、生産性向上が課題になっています。今回、メーカーは自ら野菜の生産をはじめることで、農業の現場が抱える課題を肌で感じることが可能になります。
そして、蓄積したノウハウをもとに植物工場のシステムをはじめとする、課題を解決するためのソリューションシステムを開発し農家へ販売することで、ソリューション事業の利益を伸ばすことが可能になります。
メーカーの植物工場、野菜生産の取り組みは、自社の技術や遊休設備を従来とはまったく異なる分野に応用することで、新たなビジネスが生まれることを示しています。とくに、植物工場は、第一次産業と第二次産業という、まったく異なった分野での融合により生じたビジネスです。今後はこうした別次の産業を組み合わせて、従来の自社製品とは異なるものを生みだすところにビジネスチャンスがあるといえます。
(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)
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