この傾向を受けて、円満退社した元従業員から未払い残業代及び慰謝料の支払請求を受け、和解、裁判等、示談及び協議等(以下単に「和解等」といいます。)により解決するケースも増加しているようです。
ここでは、和解等による解決金としてこれら金員が発生する場合の課税関係とその実務上の留意点について解説します。
Ⅰ 未払い残業代等の課税関係
1 元従業員の取扱い
和解等によって支払を受ける金員は、その性質によって課税関係が異なります。
和解金の発生の要因が雇用関係に基づくものであり、労務の対価としての性格を有するものであれば、「給与所得」又は「退職所得」とされます。
このうち、和解調書において「時間外労働の実態及び未払い残業代を支払うことを認める」と記載されていれば、その未払い残業代は各支給日の属する年分の給与所得として課税されます(所基通36-9)。
そこで、元従業員においては、各支給日の属する各年分における年末調整のやり直し又は所得税の申告書等(期限後申告書及び修正申告書)の提出が必要となります(所基通190-4)。
なお、未払い残業代について、遅延損害金が支払われる場合には、その遅延損害金は、その支払われた日の属する年分の「雑所得」として課税対象とされます。
2 法人の取扱い
和解等によって元従業員に対して支出する金員で、その支出の要因が雇用関係に基づくものであり、その労務の対価として支払われるものであれば、使用人給与としてその賠償すべき金額が確定した日(いわゆる和解の成立した日)の属する事業年度の損金の額とされます(法法22③二)。
Ⅱ 慰謝料の課税関係
1 元従業員の取扱い
和解金の性質が、「心身に加えられた損害に基因するもの(所令3 0①一)」及び「相当の見舞金(所令30①三)」に該当するものであれば、所得税は課されません。
ただし、和解金名目の金員であっても、元従業員の未払い残業代に相当する金員については、その実態に応じて「給与所得」として課税対象とされます。
また、未払い残業代のうちに、セクシャルハラスメント等の慰謝料に該当する部分が含まれている場合には、所得税は課税されません。
なお、非課税とされる見舞金等の額に該当するか否かの判断は、心身に加えられた損害の程度等を考慮して社会通念上相当と認められる範囲内の金額に限られますので、相当の見舞金を超える部分は、「一時所得」又は「雑所得」として課税対象とされます。
2 法人の取扱い
法人が元従業員に対して支払う和解金は、和解等によって、その賠償すべき金額が確定した日(いわゆる和解の成立した日)の属する事業年度の損金の額に算入します。
Ⅲ 源泉所得税の課税関係
1 元従業員の取扱い
和解金として支払われた損害賠償金の金員でも、その支払を受ける者において給与等として課税されるものである場合には、その支払者はその支払の際に所得税の源泉徴収を行わなければなりません(所法28①,同法183①,所基通161-46)。
この場合において、法人において、下記2に掲げる年末調整が行われていない場合(源泉徴収票の摘要欄に年末調整未済と記載されている場合)には、各支給日の属する各年分の給与所得の申告が必要となります。
その際、法人より各年分の源泉徴収票が本人に交付されますので、その源泉徴収票を添付して確定申告(期限後申告等)することとなります。
なお、源泉徴収票の作成日において未払残業代があり、法人において未徴収の源泉徴収税額がある場合には、源泉徴収票の源泉徴収税額の欄は、その未徴収税額が内書き表示されています。
2 法人の取扱い
法人は、各年分の未払残業代についてその支払の際に源泉徴収を行い、その支給の日の属する月の翌月10日までに国に納付します(所法183①)。
この場合において、原則として、法人において本来、未払残業代が支払われるべきであった年分の年末調整をやり直さなければなりません(所基通190-4)。
おわりに
法人が退職した元従業員から未払い残業代及び慰謝料の支払請求を受け、和解等による解決を行う場合、和解調書への記載方法等にかかわらず、課税庁サイドにおいては、その過程である訴状の内容、答弁書の内容、準備書面の内容などの裁判資料を基として、和解金の発生源泉に沿った事実認定を行い、実態に沿った課税がなされることとなりますので、留意して下さい。
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