この見方は経営が破綻したときに、債権者が自分の債権保全の有効性を測るため、貸借対照表だけに注目したものです。
営者がゴーイング・コンサーン(継続企業)として会社を見るときは、含み損益を収益とも関連させて見なければなりません。
たとえば、AとBの2つの不動産を持っているとします。
AもBも簿価(取得価格)は10億円で、賃貸料収入は1億円です。
ところが、時価はAが50億円、Bは5億円で、A不動産には40億円の含み益、B不動産には5億円の含み損が生じています。
この場合、会社の役に立っている不動産はどちらなのか。
簿価も賃貸料収入も変わらないので、着目ポイントは含み損益だけになります。
含み損益だけを見ていると、次のように考えてしまうかもしれません。
「A不動産の時価は簿価の5倍で40億円の含み益があり、お宝のような不動産なのに対し、B不動産は含み損が5億円で財務体質を弱めている。したがって、役に立っているのはA不動産だ。」
こうした結論に至るのは、取得価格である簿価に強く引きずられた結果です。
賃貸料収入の簿価利回り(賃貸料収入÷簿価)はAもBも10%(1億円÷10億円)で変わらず、両不動産の資金効率は変わりません。
変わるのは含み損益だけなのです。
経営において重要なのは現在の価格である時価と、これから資産が生み出すキャッシュフローです。
確かに預金や債券であれば取得価格である簿価は重要です。
それは預金や債券は原債務者が破綻しない限り、額面で償還されることが約束されているからに過ぎません。
しかし、不動産や株式における取得価格は将来の価格を保証しません。
取得価格は過去のもので、将来キャッシュフローには何の影響をも与えません。
経営にとって大切なのは過去の価格(取得価格)ではなく、現在の価格(時価)です。
したがって、経営効率を判断する利回りも簿価利回りではなく、時価利回りでなければならないのです。
そこで、両者の時価利回り(賃貸料収入÷時価)を比べると、A不動産は2%(1億円÷50億円)、B不動産は20%(1億円÷5億円)です。
資金の効率性の優劣は明らかです。Aは時価が高いから資金の効率性が低く、Bは時価が低いからこそ資金を効率的に運用できているのです。
ROA(Return on Assets 総資産利益率)は利益を総資産で割って算出するもので、会社の資産の効率性を示す重要な指標です。
会社全体の資産の効率を引き上げるためには、個々の資産の効率性を判断しなければなりません。
そのとき使用する分母の資産価格は簿価ではなく時価でなければならないのです。
含み益の大きい資産はそれに応じた高い収益を要求されていることを忘れてはなりません。
(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)
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