2019年4月12日金曜日

損益計算書の下からの賃上げ

 個人消費がなかなか盛り上がりません。
 
 個人消費はGDP(国民総生産)の大よそ6割を占めますから、個人消費が活性化しなければ、GDPも増えません。

 そこで、政府は個人消費を増やすべく様々な対策を打っています。

 その中で注目を浴びるのが賃上げです。

 政府は賃上げが望ましい理由を次のように説明します。

 賃上げで個人所得が増えれば、個人消費が活性化し、企業の売上が増加し、その結果、利益が増える経済の好循環に入るのだから、賃上げは最終的に企業のためになる。

 また、財源面からも、企業の内部留保は空前に積み上がっており、内部留保から賃上げができるはずだ。

 さらに、法人税率を引き下げ、今後も賃上げをした企業の税率引き下げも検討しているから、財源はあるはずだ、と。

 まず、財源論から考えてみましょう。

 内部留保からの賃上げ論には首を傾げざるをえません。

 なぜなら、内部留保は損益計算書の結果である当期純利益の集積であり、内部留保から直接、賃金(給与)を支払うことはできないからです。

 賃金は損益計算書の費用項目で、内部留保は貸借対照表の純資産項目です。

 その両者は損益計算書の当期純利益を媒介としなければつながりません。

 つまり、賃金を払い、損益計算書の最終利益である当期純利益を赤字にすることにより初めて内部留保が減少します。

 いくら内部留保が豊富でも、このルートからの賃金支払いに経営者が躊躇するのは当然です。

 また、法人税率を引き下げた、あるいはこれから引き下げるから、賃上げできるだろうという理論は、賃金(給与)も法人税も損益計算書項目ですから、内部留保理論に比べれば、まだ合理的だと言えますが、損益計算書を利益から作ろうとしている点に違和感を覚えます。

 損益計算書は下(利益)からではなく、上(売上)から作るものです。

 売上が増えるから、賃金を増やし、その結果利益が増加し、税金を払い、その後の利益の中から株主分配を行い、さらに残った利益が社内留保として蓄積される、というのが自然な流れです。

 税率を下げたことにより増加した利益は、損益計算書を下に流れ、株主分配と社内留保を増やすことは無理なくできます。

 しかし、この利益で賃金を増やすためには、損益計算書を逆流しなければならず、不可能ではありませんが、相当な力が必要になります。

 では、賃上げすれば労働者の所得が増大して、消費が活性化し、それにより売上が増大するという考え方に妥当性があるでしょうか。

 消費不振の原因には大きく二つが考えられます。

 一つは言うまでもなく所得の不十分さであり、もう一つは年金や医療等の将来不安のために現在の消費を抑制するというものがあります。

 消費不振の主因が所得不足にあるなら、賃上げは消費を喚起するでしょうが、将来不安が主な要因だとすれば、たった数%の賃金増加が消費を刺激するとは思えません。

 賃金が先か消費が先かという議論は、鶏と卵の議論のようなところがあり、様々な論争がありますが、やってみなければ分からないというのが正直なところだと思います。

 経営者とすればそんな不確定な見込みに基づいて容易に賃上げすることには踏み切れないでしょう。

 政府には是非、損益計算書の下からではなく、上から賃上げできる環境を整えてほしいものだと思います。

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2019年4月11日木曜日

国税庁:2017事務年度の消費税不正還付状況を公表!

 国税庁は、2017事務年度(2018年6月までの1年間)の消費税不正還付状況を公表しました。

 それによりますと、2017事務年度において、消費税還付申告法人6,721件(前年対比2.1%減)に対し、実地調査を実施した結果、3,880件(同1.9%減)に非違があり、消費税256億9,300万円(同13.2%減)を追徴課税したことが明らかになりました。

 実地調査した6,721件のうちの約12%にあたる787件(前年対比1.9%減)は不正に還付金額の水増しなどを行っていたとして、58億3,400万円(同54.4%減)を追徴課税しております。

 消費税還付申告法人に対する追徴課税の推移をみてみますと、2015事務年度は約152億円(うち不正計算に係る追徴税額約30億円)、2016事務年度は約296億円(同約128億円)、2017事務年度は約257億円(同約58億円)と推移しております。

 また、調査事例では、多額の還付申告に着目し、不正還付を解明したケースがあがっております。

 調査の結果、インターネットによる海外旅行客向けのツアー販売などを営むA社は、無申告法人を利用し、実体のないソフトウェアをあたかも取得していたかのように契約書を仮装していたことを、契約の相手方に対する反面調査などを通じて把握しました。

 A社に対しては、1年分の消費税について追徴税額2,200万円(加算税込み、重加算税有)が課されている。

 なお、2017事務年度における法人消費税の調査は、法人税との同時調査で9万4千件(前年対比0.9%増)の実地調査を実施し、そのうち、5万5千件(同0.6%増)に非違があり、追徴税額は748億円(同4.7%減)、1件あたり80万円(同5.6%減)となりました。

 また、実地調査のうちの約17%にあたる1万6千件(同3.9%増)は不正計算があったことから、233億円(同20.0%減)を追徴し、不正1件あたりの追徴税額は147万円(同23.0%減)となりました。

 国税庁では、虚偽の申告により不正に消費税の還付金を得るケースが見受けられることから、不正還付等を行っていると認められる法人については、的確に選定し、厳正な調査を実施しております。

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2019年4月10日水曜日

国税庁:2017年分の国外財産調書の提出状況を公表!

 国税庁は、2017年分の国外財産調書の提出状況を公表しました。

 それによりますと、2017年12月31日における国外財産の保有状況を記載した2017年分の国外財産調書の提出件数は、2018年6月末までに提出されたもので、前年比4.9%増の9,551件、その総財産額は同11.0%増の3兆6,662億円となりました。

 局別に提出件数をみてみますと、東京局が6,154件(構成比64.4%)、大阪局が1,331件(同13.9%)、名古屋局が699件(同7.3%)となりました。

 財産額でみてみますと、東京局は2兆7,485億円にのぼり、全体の75.0%を占めました。

 また、財産の種類別総額では、有価証券が52.5%を占める1兆9,252億円で最多、以下、預貯金が6,204億円(構成比16.9%)、建物が4,038億円(同11.0%)、貸付金が1,705億円(同4.7%)、土地が1,449億円(同4.0%)、それ以外の財産が4,014億円(同10.9%)となりました。

 2014年から個人を対象に義務化された国外財産調書は、自主的に自己の情報を記載し提出するものであることから、インセンティブ措置等が設けられております。

 具体的には、調書を期限内に提出した場合には記載された国外財産に係る所得税・相続税の申告漏れが生じたときであっても加算税を5%軽減すること、調書の提出がない場合又は提出された調書に国外財産の記載がない場合に、その国外財産に関して所得税の申告漏れが生じたときには、加算税を5%加重します。

 また、2015年からは故意の不提出や虚偽記載に対して1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます。

 国外財産調書の提出者及び提出を要すると見込まれる者に対する2017事務年度(2018年6月までの1年間)における所得税及び相続税の実地調査の結果、上記の5%軽減措置を適用したのは168件、増差所得等金額は45億7,467万円となり、上記の5%加重措置を適用した件数は194件、同51億1,095万円となりました。

2019年4月9日火曜日

修繕費か資本的支出か システムキッチンの取替工事

◆悩ましい?「システムキッチンの取替工事」

 賃貸不動産の管理者は、入居者の退去の際、内部の建具などの傷みが激しければ業者に修繕を依頼します。

 設備の交換に及ぶこともあり、税務上、修繕費とするか、資本的支出とするか悩ましいものもあります。

◆システムキッチンは建物と一体の台所?

 国税不服審判所でも、システムキッチンの交換が修繕費に当たるか、資本的支出に当たるか争われた例があります。

 あるマンション(築17年)を賃貸していた方が、その賃貸していた部屋の台所ほか各設備を取り壊し、新たなシステムキッチンに取替えた工事を修繕費としたところ税務署から否認されました。

 そこで次の理由から、修繕費であると主張しました。
・居住用機能を回復させる工事であること
・建物の基礎や柱などの躯体に影響を与えるものでなく、建物の現状維持が目的であること

 これに対し、審判所は、事案のシステムキッチンは、建物と物理的に不可分なものであり、建物の修繕費(既存設備の解体工事)と資本的支出(新設備の取得)が同時に行われたもので、建物の価値増加に貢献することから、資本的支出と判断しました。

 この裁決では「システムキッチン」について、広辞苑の次の説明を引用しています。

(システムキッチン)台所の形態の一種で、ある規格に基づいて作られた流し台、調理台、ガス台、収納部などを自由に組み合わせ一体化して作り付けた台所

 このシステムキッチンは、流し台等が建物新築時より床や壁に固定され、給湯、給排水、電気及びガス設備と連結させて、初めて住宅内での調理等ができるもので、建物との物理的な接着度が高く、容易に取り外せないものであったようです。

 この裁決では「建物と一体不可分な台所」と判断したものでしたが、この裁決以前は、「建物と可分・独立」なものとして「器具備品」と整理する例が多かったようです。

◆個別の状況に応じて総合的な判断を

 ただ、この裁決の判断は一例であり、取替工事については、個別に「修繕費」か「資本的支出」か、「既存資産を除却し、新規取得資産の取得」とするか判断する必要がありそうです。

①支出金額の内容、
②支出効果の実質
を見ながら、既存の資産が「建物」で計上されているか、「器具備品」で計上されているのか等も確認する必要があります。

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2019年4月8日月曜日

依然健在 還付金詐欺にご用心!

◆ATMを操作しても還付金はもらえません!

 所得税の確定申告で還付となった場合、通常1か月~1か月半程度(電子申告の場合は3週間程度)で還付金は申告した口座に入金されますが、電話で何やら難しいことを言い立て、還付金の送金に問題があるとしてお年寄りにATMの操作をさせ、預金をだまし取る還付金詐欺があります。

 警察・銀行等の努力の甲斐もあって、平成29年に比べれば30年は認知件数・被害額ともに下がってはいるものの、還付金詐欺の被害額は年間22.5億円となったそうです。

 詐欺グループは税理士の名を騙ったり、国税庁の名前を出してきたり、銀行職員として電話を掛けてきたりと、多種多様な手口で皆さんのお金を狙っています。

 少しでも怪しいと感じたら、すぐに警察に相談しましょう。

◆振り込め詐欺は雑損控除の対象ではない

 「災害又は盗難若しくは横領によって」資産について損害を受けた場合等には、一定の金額の所得控除を受けることができます。

 これを雑損控除といいますが、国税庁ではご丁寧に「詐欺や恐喝の場合には、雑損控除は受けられません」と記載しています。

 過去には振り込め詐欺について、国税不服審判所で争ったケースもありましたが、やはり雑損控除の対象にならないと結論付けられています。

◆振り込め詐欺被害の救済策

 平成19年、国は新たに「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」を制定し、振り込め詐欺等で利用された金融機関の口座に残っている犯罪被害金の分配を、被害を受けた人に向けて行うようになりました。

 犯罪利用口座は「預金保険機構」からインターネットで公告されるので、ここに自分が詐欺によって振り込んでしまった口座がある場合、申請をすることによって口座に残っている金額・申請人数に応じて分配が行われるようになります。

 当然詐欺グループは入金された金をすぐに引き出そうとしますから、騙されたと分かったら、すぐに口座凍結の申請を行うべきです。

 口座に金額が残っていなければ、申請を行っても分配は行われません。

 振り込め詐欺等の特殊詐欺は微減しているとはいえ平成30年で16,000件超、被害額は350億円を超えます。

 税金関係でも救済策があってよいのではないでしょうか。

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2019年4月7日日曜日

認定支援機関の実績、ネット公表

 税理士などの専門家が中小企業をサポートする「認定経営革新等支援機関(認定支援機関)」制度について、中小企業庁は、支援機関ごとにサポートした件数や支援先の利益の平均伸び率などをホームページ上で公表することを決めました。

 中小企業が支援機関の活動実態を把握し、比較することができるようにするのが狙いです。

 中企庁は、認定支援機関の活動状況の「見える化」への取り組みとして、各種データを公表することを決めました。

 支援機関の店舗名や本店住所、連絡先といったすでに公開されている基本情報に加え、これまでの具体的なサポート件数、支援を行った内容などを表示します。

 さらに支援機関の関与が要件となっている「ものづくり補助金」の採択件数や採択率も表示し、そのデータを基に支援先の売上高の伸び率といった〝実績〟も掲載する予定です。

 具体的な支援事例の情報については、支援機関自身による追記もできるようにします。

 認定支援機関のサポートを受けたい中小企業は、専用の検索システムページからこれらの情報を調べられるようになります。

 2019年度税制改正でスタートした個人版事業承継税制など、認定支援機関の関与を必須とする税優遇は増えつつあります。

 それに伴い具体的な支援実績を伴わない「名ばかり支援機関」の登録が散見することから、昨年から同制度は5年ごとの更新制になったばかりです。

 インターネットで機関ごとの実績を公表することで、支援機関へ積極的な活動を促すとともに、中小企業の相談先選びに活用してほしいとの期待があるとみられます。

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2019年4月6日土曜日

節税保険の規制の歴史

 昨年夏ごろから噂されていた節税保険の規制が、ついに現実となりました。

 1月に金融庁が生保各社を呼び出して商品設計の見直しを求め、2月には国税庁が支払保険料の損金算入に新たな規制を設ける方針を提示。

 これらの動きを受け、すでに大手生保各社は同種の保険の販売を取りやめている状態です。

 生保業界が売り出した「節税保険」が当局に規制されて販売中止になるのは今回が初めてではありません。

 それどころか、過去に何度も繰り返されてきた「いつか見た景色」であるとさえ言えます。

 例えば1987年には、当時よく売れていた「長期平準定期保険」について、それまで認めていた全損処理を許さず一部資産計上するとした通達が国税庁から出されました。

 その後、生保各社は「逓増定期保険」と呼ばれる、支払った保険料を全額損金にできる貯蓄型商品を売り出しますが、96年と2008年の個別通達により規制されます。

 すると生保業界は「がん保険」を新たな全損商品として売り出しますが、これまた12年の通達で規制されました。

 節税保険の歴史とは、ルールの隙間を突いて全損商品を開発する生保会社と、その穴をふさぐ国税当局という構図の繰り返しということになりそうです。

 果たして、今回規制された「傷害(災害)保障期間設定型」の長期定期保険が〝最後の節税保険〟となるのか、それともまた新たなルールの抜け穴が発見されるのか。歴史は後者を指しているようにも思えます。

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